ある日の相談

 このところ成年後見の受任が増え、高齢化問題の深刻さを改めて感じている。私の住んでいる地域も高齢者のみ世帯、一人暮らし世帯がとても多い。子育ても終わり、定年退職したり家業を譲ったりして、趣味など第二の人生を有意義に過ごされている。70代ぐらいまでの方は、大体皆さんお元気で老後を満喫されているように見受けられる。

 ところがこれが80代ぐらいになると随分と様子変わってくる。昔と違って男女とも平均寿命が80歳を超えました。健康なうちは良いのだけれども、健康に問題が出てくると非常に深刻な状況に陥ります。認知症や病気によっては、施設や病院暮らしを余儀なくされます。家族や親族が全面的にサポートできる状況の方は非常に少ないのが現状です。

 元気なうちは「まだ先の話じゃかい」と、多くの方が何も「備え」をしていません。ところが、80歳を過ぎ健康に問題を抱えてくる頃には、その「備え」をする能力が低下してきます。認知症にならなくても歳をとると判断能力も落ちてきます。したがって、「備え」をする能力や判断力がある内に十分な「備え」をしなくてはなりません。

 

 最近受けた相談をご紹介します。

 Bさん(女)から近所のAさん(女:一人暮らし、身寄り無)の事で相談がありました。Aさんは、Bさんの幼馴染です。十数年前にAさんは、病気になり入院、その後認知症になり現在は、老人ホームに入所し十年近くなります。Aさんが一番の仲良しのBさんは、たまにAさんを見舞い老人ホームに行っています。Aさんは、Bさんが来ると若い頃の話をして楽しい時間を過ごします。Aさんは、病気になる前まで、先だった夫の残した田畑を耕作していました。田畑のほかにも山林も所有しています。美味しい米と野菜の自慢を毎回のようにBさんに話します。「はよ帰って田んぼや野菜の世話せんといかん」が口癖になっています。

 あるときBさんは、ご近所からAさんの田畑の話を耳にします。Aさんの田畑や山林が、数年前に第三者の手に渡っているという話です。法律に詳しくないAさんは最初は、何も思ってませんでしたが、ふとしたことで都会で暮らしている息子に話したところ、「それおかしくない?」と息子。Aさんが、認知症になってずいぶん経った後にAさんの財産が処分されているのです。Aさんは、年金があるので生活保護など受けていません。財産を処分する必要がない。Aさんには子供がいません。兄弟もいません。つまり法定相続人が一人もいません。(Aさんの話なので確実かどうか不明)その状況で認知症になった後に処分されているかもしれないとの話なのです。なんとも不思議な話です。

 Bさんは、Aさんの財産が違法に処分されているのではないか?と相談に来たわけです。行政書士である私には、この手の問題はどうしようもありません。Bさんが自ら、もしくは弁護士などに依頼して調査を行い、違法な事が行われている事実が確認できれば、Bさんなりが訴えを起こすことが可能かもしれません。しかし、仮にそのような事実があったとしてAさんの財産が回復されたとしてもAさんには分からないし、今以上に幸せになるわけでもないように思います。Bさんもその事は、分かっているようでした。

 

 今回のケースで何が言いたいかというと、「元気で判断能力がある内に備えをしておきなさい。」ということです。冒頭に書いたとおりです。

 

 認知症になる前に、身寄りのない自分の生末を想像し、財産の事、病院や施設に入らないといけなくなった場合や亡くなった時の望みなど、もしもの時の準備をしておきましょう。それは、とりもなおさずご自身はもちろん残された家族の幸せの為だと思うのです。